再生医療の実用化に向けた生物工学研究

実施研究室: 黒澤研究室

胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞に代表される多能性幹細胞は、無限に増殖する能力と生体のあらゆる細胞種に分化する能力を兼ね備えています。これら多能性幹細胞の分化を誘導し、いろいろな細胞をつくりだす試みがなされています。多能性幹細胞の分化を誘導する際に、胚様体(EB)という球状の細胞集塊を形成させる方法は、有効な分化誘導技術となっています。私たちは、EB形成のための技術開発とEBの品質保証に関する研究を行っています。    

1. 胚様体の形成

私たちは、分化状態が均一の胚様体(EB)を高い再現性で生産できる方法を開発しました。それは、リン脂質ポリマー(MPCポリマー)を培養面に塗布して、細胞の付着性を低減させた96 well plateです(図1)。このプレートを用いると、単位wellあたりで、既知数のES細胞から単一のEBを再現性よく形成させることができます(図2)。

2. 胚様体の品質管理(分化状態の図式化)

胚様体(EB)がどのような分化状態にあるのかを知ることは、その後の研究を効率的に進める上で重要です。私たちは、種々の培養条件で形成したさまざまなタイプのEBの分化状態を明らかにする研究を行いました。

本研究で注目した遺伝子は、未分化性のマーカーであるOct-3/4とRex-1、心筋特異的遺伝子のNkx2.5とa-MHC、内胚葉特異的遺伝子のTTRとAFP、及び一般的にES細胞の分化マーカーとして用いられているGATA4とGATA6です。様々な培養条件下で形成したES細胞のEBにおける上記遺伝子の発現量を測定し、相対発現量をレーダーチャートとして示しました(図3)。MPC plate法で初期細胞数1000個から形成したEB(Bタイプ)は、心筋特異的遺伝子のNkx2.5とa-MHCが強く発現していて、このEBからは拍動する心筋細胞が効率よく発生しました。初期細胞数を1000から4000個 に変化させると、EBの遺伝子発現パターンが変化しました。すなわち、4000個から形成したEB(Aタイプ)では、Nkx2.5とa-MHCよりも TTRとAFPの相対発現量が顕著に増大しました。そして、このEBからは内臓卵黄嚢様構造が高効率で発生しました。

以上の結果は、EB形成のための培養条件(ES細胞の初期細胞数及びEBの形成方法)をコントロールすることにより、特定の分化状態にあるEBを意図的、かつ安定的に作製可能であることを示しています。本研究成果は、今後のES細胞の分化制御の研究やEB生産の品質管理に貢献するものと期待されます。


図3 EBの分化状態を図式化した例

関連資料
第16回生物工学論文賞 
http://www.bt.yamanashi.ac.jp/modules/info/index.php?page=article&storyid=60 Characterization of Embryoid Bodies of Mouse Embryonic Stem Cells Formed under Various Culture Conditions and Estimation of Differentiation Status of Such Bodies

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