卒業生からのメッセージ

三沢 宏
ヤクルト中央研究所
発酵生産学科 昭和43年卒

『21世紀はプロバイオティクスの時代』
この原稿の執筆依頼を拝受したことで、久しぶりに大学時代の記憶をたどり、暫し感傷に浸ることが出来ました。小生は、発酵生産学科第一講座で野々村 英夫助教授、小原 巌教授の下で「Streptomycesの分類」というテーマで論文を書いた微かな記憶があります。小原教授の専門とした酵母の研究は難しくて当時は理解できませんでしたが、先生は常に優しく、学生と同じ目線で接して下さいました。特に、就職先を探す時期には、一人一人に面接試験の仕方を懇切丁寧に指導して下さったことを鮮明に記憶しております。おそらく小原先生は、社会人になって恥ずかしくない人との接し方・礼儀作法を教えて下さったものと思います。温厚で心の広い小原先生がこの6月に亡くなったことを知り、遺憾にたえません。心より、小原先生のご冥福をお祈り申し上げます。
小生は高校生の頃、フレミング博士がペニシリンを発見し、多くの患者を感染症から救ったことを知り微生物の力に魅せられました。幸運にも、ヤクルトの創始者,代田 稔博士が高校の大先輩であることを知り、就職をお願いしました。入社以来、腸内細菌の研究あるいはそれを利用した食品開発に携わって38年間になりました。

腸内細菌の多くが偏性嫌気性細菌であるため、当初は個数を数えるには酸素のない
嫌気状態で培養する必要がありましたが、今では遺伝子レベルで個数が数えられるようになりました。ヒトの腸内には300種100兆個の細菌がいるといわれております。1個の細菌の長さを1ミクロンとして100兆個を繋げると10万Kmになり、この長さは地球2.5周に相当します。また、大便の約10%が細菌なので(水が70%)、1回の排便で20~30gの腸内細菌が排出されている計算になります。私たちの腸の中には、かくも沢山の細菌が生息していることに驚かされたのではないかと思います。それらの腸内細菌は大まかに、善玉菌、悪玉菌と中間的な菌に分類されます。中間的な菌の中には、腸内環境が悪くなると悪玉菌と一緒に悪いことをする菌がおり日和見菌といわれております。一方、善玉菌の代表が乳酸菌やビフィズス菌です。これらの菌のように宿主に対して良い働きをする生きた菌をプロバイオティクス(Probiotics)と言われております。このプロバイオティクスが100兆個の腸内細菌をコントロールし、バランスを整えていてくれるのです。バランスが崩れると悪玉菌が暴れ始め、たちまち病気が発症することになります。腸は体の中で最も病気が多い場所であるだけに、体の中で最も免疫組織が発達している器官です。プロバイオティクスには、腸の免疫組織を活性化させる働きがあることがわかってきたため、これに関する研究が最近活発に行なわれております。腸内細菌のバランスはいろいろな原因で崩れてしまいます。その原因として、薬の服用、加齢、ストレス、食事など様々ですが、このバランスの乱れを最小限に抑え健康な腸を維持してくれるのが乳酸菌でありビフィズス菌なのです。

20世紀は、必要以上に抗生物質を服用することが日常的に行われました。その結果、抗生物質が効かない多剤耐性菌を生み出してしまい、病院などで大きな問題になっております。この現象を鑑み、21世紀は日ごろからプロバイオティクスを摂取して、病気を予防する時代であると言われております。プロバイオティクスは、今世紀の健康の鍵を握るキーワードとして世界中で注目されております。
100兆個の腸内細菌のうち、約半分は培養できないため未知な菌です。これらの中にペニシリン以上の効果を発揮するプロバイオティクスが未だいることを確信して、世界中のヒトを対象として糞便を採取し、今日も新規なプロバイオティクスの探索が続けられております。

(2006.6山梨工業会誌寄稿)

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