教員・研究室紹介

微生物利用工学研究室

微生物利用工学研究室                                                          教員:大槻隆司

 

 本研究室では、微生物とバイオマスを主な研究対象とし、「微生物あるいは微生物群が有する機能を利用して人間社会と地球環境に有益な工程の基盤となる技術を開発する」ことを目標として研究を進めています。

 近年は化石資源消費がもたらす地球環境変化や化石資源自体の枯渇危機を鑑み、廃棄バイオマスを変換することで燃料や化学工業原料を化石資源に代えて供給する研究が主体ですが、バイオマス変換はコストに難があるため、同時により高付加価値な製品を生産することで全体のコストを賄い、産業として成り立たせるための研究にも力を入れています。

総合的なプロセスの一例を図1に示します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いろいろな生物の力を借りた工程を組み合わせることで、現在は廃棄物として処理されているバイオマスから様々な製品を取り出すことができます。

現在、このようなシステムづくりに活かすために行っている研究例(図1中の①〜④の工程)について紹介します。

 

①メタン発酵の生産制御

メタン発酵は日本でも生ゴミなどからメタンを取り出す工程として利用されていますが、内部に数百〜数万種類いる微生物がどのように協調してメタンが作られるのかについては詳細にはわかっていません。実験室内でメタン発酵を行わせ、メタン生産が上手くいく場合といかない場合で微生物たちの振る舞いにどのような違いがあるのかを調べていくことで、最終的には効率よくメタンを生産するための制御法開発につながります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②ブタンジオールの大量生産

 化学工業の基幹化合物として1,3-ブタジエンという物質があります。現在は化石資源から多くを製造しています。生物は1,3-ブタジエンを直接作り出すことはほとんどできないのですが、1,3-ブタジエンへの変換が容易な2,3-ブタンジオールという物質をつくることはできます。

 本研究室ではバイオマス由来の糖から2,3-ブタンジオールを効率よく生産する微生物を見出し、さらに高生産可能な変異株を得ることに成功しました。同株では野生株に比べて細胞内のNAD+という物質が少ないことを見出し、ゲノム解析の結果、NAD+の代謝に関わると考えられる酵素が変化していることを明らかにしました。さらに解析を進め、ブタンジオールの高生産プロセスの開発に活かしていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③微細藻類の炭化水素生産性向上

バイオ燃料というと油をメチルエステル化処理したバイオディーゼルか、アルコール発酵で生産したエタノールが主流ですが、重油に相当する長鎖炭化水素を生産する微細藻類が存在します。この炭化水素をクラッキング処理することで現在の燃料(ナフサ、灯油、軽油、ガソリン、重油)はすべて賄うことができるので重要な藻類ですが、生育が非常に遅く工業化の障壁となっています。

本研究室ではこの藻類に共生するある細菌が、藻類の生育を促進し、炭化水素生産性を向上させる作用をもつことを見出しました。現在、その作用について分子生物学的なアプローチで解析を行っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④薬用作物の優良苗育成と供給

 図1のようなシステム内で生産される製品は、燃料や化学工業原料といった原価の安いものが多いため利益が得にくく一般に普及しにくい問題があります。そこで付加価値の高い作物や飼料のような製品も同時に生産できると普及の際の強みとなります。

 国内の漢方市場は原料の90%以上を輸入に頼っており、漢方原料である薬用作物の国産化が志向されています。本研究室では、柴胡という漢方の原料となるミシマサイコという薬用作物を効率よく無菌発芽させてクローン苗を増やし、さらに短期間である程度大きくして苗を供給する手法を確立しました。これをもとに、従来は個体間のばらつきが大きかった品質について、高品質をもつ株を選抜して安定的に苗を供給し、さらに露地のみで栽培する場合に比べて半分程度の期間で収獲できる技術の開発を行っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに示したのはごく一部の例ですが、ほかにも様々な観点から生物機能を活用する研究を行っています。