教員・研究室紹介

胚環境研究室

私たちの研究室では、哺乳類の胚の環境と発生の仕組みを理解し、健康な産子がたくさん生まれる技術の開発を目指しています。

受精してすぐの胚             受精後4日目の胚

主な研究テーマ
●細胞生理学的視点から胚の発生率向上技術の開発
ライブセルイメージングによる3-4細胞期胚での細胞内分解機構オートファジーの観察
   

●胚環境が成体の健康に及ぼす長期影響の仕組みの解明

●マイクロマニピュレーターを用いた新しい発生工学技術の開発

【はじめに】本来哺乳類の発生は、母体内で受精し、その後子宮で着床し胎児へと発生します。発生工学技術の進歩により、卵子を体外に取り出した後、体外受精、顕微授精、体細胞クローンなどさまざまな方法で胚を作製し、子宮に戻すことで産仔が得られるようになりました。しかしながら、現在でも体外での培養は、体内に比べて産仔への発生率が低く、さらに体外における胚操作や培養がどのように発生や成体の健康に影響するか詳細はわかっていません。

研究の一例
胚のアセチル化状態とその後の胚発生に関する研究
【方法】アセチル化は、合成されたタンパク質に結合する翻訳後修飾の一つ*で細胞の記憶に重要なことが知られています。胚のアセチル化の状態がその後の発生に重要であるか、また卵の中でどのような挙動をするか調べました。具体的な方法は、アセチル化を脱アセチル化酵素の阻害剤(TSA)を培養液に添加することで受精卵やクローン胚の細胞の中のアセチル化の状態を大幅に高くする条件で培養を行いました。 

          

*翻訳後修飾:タンパク質は、合成された後メチル化、アセチル化、ユビキチン化など様々な酵素により修飾され、その働きが制御されます。

【結果】体細胞クローンの培養時にTSAを入れると、卵は高アセチル化状態になりクローンマウスが生まれる率が大幅に向上しました。一方、受精卵では、同じ条件で培養しても出産率は低下し、さらに一部の産仔で低体重のマウスが生まれてきました。このように胚のアセチル化の状態はその後の発生にとって大変重要な意味をもつことが示されました。


【研究の成果】胚や胎児の発生環境は、体内では母体の栄養状態、また体外では培養環境により変わります。そしてその発生環境は細胞に記憶され、場合によってはヒトでは何十年も残ることが知られています。今回の研究結果から、胚のアセチル化状態はその後の胚発生に大きな影響を与えることがわかり、詳細な解析を行っていくことで、正常な発生に必要な環境(適切な培養条件)が明らかになり、より健全で効率的な産仔作出法の手がかりになることが期待されます。

胚環境研究室HP