教員・研究室紹介

発生工学研究室

 私たちの実験室は山梨大学発生工学研究センターの内にあり、サイエンスフィクション(SF)のようなテーマを本気で行っている世界でも珍しい研究室です。たとえばクローン動物を作る研究では、新技術の開発により絶滅動物の復活や絶滅危惧種の救済を目指しています。冷凍庫で凍っていたマウスの死体や、マウスの尿(に含まれている細胞)からクローンマウスを作った研究は世界中で報道されました。

 

 

 

 

図1.16年間凍結されていた死体(左)から核を取り出し、卵子の中へ核移植(中央)すると、元気なクローンマウス(右の茶色マウス)が生まれてくる。この実験によりマンモスの復活も夢ではない可能性が示された。

 

 人為的に受精卵を作って子供を作る研究では、凍結乾燥で作られた非常食やインスタントコーヒーのように、水を加えだけで使用できるインスタント精子の開発に成功しました。まだ基礎研究の段階ですが、インスタント精子であれば、特別な冷凍庫どころか普通の冷蔵庫すら必要なく、なんの変哲もないただの机の引き出しの中で保存することも可能になりました。これが実用化できれば、災害時でも安全に長期間、地球の貴重な遺伝子資源を保存出来るようになります。

 

 

 

 

図2.マウスの精子を凍結乾燥すると(左)、机の引き出しの中(中央)で1年以上保存しても、マイクロマニピュレーターで顕微授精を行うとたくさんの赤ちゃんが生まれてくる(右)。冷凍庫はもはや必要ない。

 

 一方、将来人類が宇宙で繁栄する時代が来たときのために、国際宇宙ステーションを実際に利用した研究を2つ行っています。1つ目は宇宙ステーションで精子を保存して、宇宙放射線が精子や子供にどのような変異を与えるのかという研究です。2つ目は宇宙ステーション内でマウスの受精卵を培養して、無重力でも正しく発生できるのかを調べます。これらの研究で、哺乳類が宇宙の過酷な環境でも繁殖できるのかを明らかにします。

 

 

 

 

図3.私たちの試料がH2Bロケット4号機に載せられ(左。後ろに見えるのがロケットの頭の部分)、種子島から打ち上げられた(中央)。1年後に地球に回収し、宇宙放射線が精子にどのような影響を与えたのか調べた結果、全く影響を受けずに赤ちゃんが生まれてきた(右。世界初の宇宙マウス。世界で報道された)。

 

 また私たちは、不妊治療のための新技術開発にも力を入れています。たとえば、精巣の中には精子だけでなく円形精子細胞という減数分裂が終わったけどまだ尻尾が生えていない細胞がいます。精子を作れない患者さんの場合、この円形精子細胞を卵子内へ人為的に注入してあげると、低率ですが子供をも作ることが出来ます。私たちは受精卵の質を生きたまま判定できる新しい方法を開発して、なぜ率が低いのか、どうやったら改善できるのか、ということを研究しています。

 

 

 

図4.生きたままDNAの”緩さ”を解析するzFRAP (zygotic Fluorescence Recovery After Photobleaching解析 (左2枚。左が円形精子細胞注入胚、右は精子注入胚)。見た目はほとんど変わらないが、DNAの緩さには違いがある。zFRAPは胚に大きなダメージを与えず、解析した胚は母体に戻すことで、正常に子供は生まれ、異常は見られなかった(右2枚。zFRAP解析をした胚から得られた産仔)。今後、zFRAPを使って、赤ちゃんになれる(あるいはなれない)胚の選別技術の確立を目指します。

 

 私たちが研究している発生工学研究センターにはこれらの研究を行うために、フル装備のマイクロマニピュレーター(卵子や精子、体細胞の核を顕微鏡下で操作する道具)を14セット配備しています。1セット約1千万円もする装置で、これだけの数を有する施設は世界でもここだけです。このマイクロマニピュレーターの操作は非常に繊細で難しいので、普通なら博士課程の学生さんにしか指導しないのですが、私たちはこの技術を学部の学生に伝授することも目的の1つにしています。

 

 

 

 

 

図5.発生工学研究センター内には世界最大規模を誇る14台のマイクロマニピュレーターがある。学生たちが本気で頑張って研究している。

 

 本センターは私たちの研究室だけでなく、動物発生・細胞培養工学分野の4研究室の先生たちと連携し、学部学生および大学院生の研究指導に直接携わり、世界で活躍できる研究者の育成にも力を入れています。そのため博士課程への進学率も高く、研究者を目指したい学生は、教員からだけでなく博士課程の先輩からも指導を受けられます。また、博士課程までは希望していないけど研究を続けたい、という学生さんたちには、ヒトの不妊治療クリニックにおいて胚培養士として、あるいは国の研究機関でテクニカルスタッフとして活躍してもらうことも勧めています。国際共同研究も積極的に行い、海外から研究者を受け入れ学生たちと一緒に技術指導を行うことで、学生たちに国際感覚も身に付けさせています。意欲のある学生さんを大募集しています。ぜひ私たちといっしょに研究しましょう!

発生工学研究センターHP