受験生の皆さんへ

大久保 真哉

『生命工学科からはじまった私の創薬研究』

 バイオテクノロジー」や「生命現象の不可思議さの探求」といった当時のトレンドに魅せられて、私は2003年に山梨大学工学部生命工学科の門戸を叩きました。私が在籍した山梨大学・生命工学科では、我々の暮らしの中で欠かすことのできない医薬、食品、環境など、産業の基盤となる知識や技術の習熟に重きを置いており、地域社会からの多くの期待を集め、またそれにものづくりの精神で持って応える、とても活気に満ちた学び舎であったことを記憶しております。今回はこのような貴重な機会をいただきましたので、学科から卒業した現在にいたる所感とともに、山梨大学生命工学科に対する思いを簡単にご紹介させていただきます。

 当時の生命工学科では研究室ごとに数々の魅力のあるテーマが掲げられていたため、4年次の研究室配属では私を含め、多くの学生が自身の配属先に悩まされていたことを覚えております。悩みに悩んで私が配属先として選んだのが、早川先生の応用微生物学研究室でした。応用微生物学研究室では有用物質生産の要である微生物、『放線菌』に集中して研究を行っておりました。放線菌は多様な二次代謝産物の生産者であるとともに、免疫抑制剤であるFK506やオンコセルカ症の予防・治療薬であるエバーメクチンなどを生産することで知られ、世界的に重要な創薬資源でもあります。私はこの放線菌と出会い、早川先生のご指導を受けながら、研究過程で次々と新たな知見が生まれ、そして徐々に深まっていく楽しさを知り、どんどんとその魅力に取り付かれていきました。そこから私の研究生活がはじまったと言えると思います。また、医薬分野に関連するこれらのことを研究していたという縁もあって、卒業後はエーザイにおいて、創薬研究という非常に夢があり、やりがいのある仕事に就くこととなりました。就職後は学生時代と比べて研究内容も大きく広がり、これからもまだまだ勉強していかなければならないことは多分にあると思いますが、今でもこの生命工学科で学んだことは日々の研究生活において糧となっており、何事にも挑戦していく心構えを与えてくれたと思います。そういった生命工学科で学んだ一挙手一投足がその後の研究意欲にも反映されており、私は心躍る思いで今日もまた研究に明け暮れております。 

 現在の私の夢は、私のこの手でアンメットメディカルニーズ(いまだ満たされていない、いまだ有効な治療方法が存在しない医療ニーズ)に応える薬を創出することです。このように自身の生涯をかけて取り組むべき夢を明確にできたのも、生命工学科で過ごした経験によるところが大きいと思います。そして良くも悪くも片時も欠かさず、部活にしろ、研究にしろ、熱中することができた何かがあったという自負が私自身の大きな支えとなっています。これは学生時代、早川先生や山村先生をはじめとする多くの先生方や先輩たちのご指導・ご鞭撻、また叱咤激励していただいた賜物であり、そして常に上昇志向を持って物事に取り組むことの大切さを教えていただいたからだと思っております。

 私が知るかぎり、生命工学科(旧発酵生産学科)の卒業生は、今日の日本社会を支える中心人物となられている方々ばかりです。これは私自身の課題でもありますが、今後、生命工学科に入学される学生さんには是非この意識を強く持っていただいて、同じ生命工学科の同窓として、日本または世界の産業を牽引するような仕事に共に取り組んでいけることを心より願っております。

 最後にこのような拙文を取り上げていただいた恩師である早川先生にこの場を借りて厚く御礼申し上げるとともに、山梨大学工学部生命工学科のさらなる御躍進を願いながら、これを生命工学科・一卒業生としてのメッセージとして送りたいと思います。