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新型コロナウイルスの変異による感染性の上昇に関する重要な発見 2021年2月発表

生命工学科を2017年に卒業し、博士課程(統合応用生命科学専攻生命工学コース)2年生(2021年2月現在)の大園誠也さんらのグループが、新型コロナウイルスの変異による感染性の上昇に関する重要な発見をし、大園さんが筆頭著者として、Nature Communications 誌に、”SARS-CoV-2 D614G spike mutation increases entry efficiency with enhanced ACE2-binding affinity.”(新型コロナウイルスD614Gスパイク変異はACE2結合親和性を高めることにより細胞内侵入効率を上昇させる)の標題の原著論文を発表しました。

Nature Communications 誌の論文へのリンク
国立感染症研究所による解説記事へのリンク

 

 

 

 

 

 
 
大園誠也さんの写真

以下、大園さんによる研究成果の解説です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病原体であるSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)のウイルス粒子表面に存在するスパイクタンパク質は、ウイルスの細胞内侵入において必須の役割を持ち、同時にワクチンで誘導される中和抗体の標的として非常に重要なウイルスタンパク質である。本研究において、世界中で爆発的に広がったD614Gスパイク変異型(614番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸からグリシンに変異)が野生型スパイクタンパク質よりACE2受容体への高い結合親和性を示し、それによってウイルスの感染力を増強させることを報告した。まず2003年に流行したSARSの病原体であるSARS-CoVのスパイクと野生型SARS-CoV-2スパイク、そして今回のパンデミック初期に出現した5種類のSARS-CoV-2スパイク変異型(H49Y、V367F、G476S、V483A、D614G)の発現ベクターを作製し、我々が先頃樹立した新規HiBiTタグ付加型レンチウイルスベクター系(Ozono et al., J Biol Chem, 2020)を用いて、スパイクシュードウイルス(スパイクタンパク質をまとったレンチウイルス)の感染性について検討した。その結果、SARS-CoVスパイクと比較して、SARS-CoV-2スパイクシュードウイルスは感染性が極端に低いこと、またSARS-CoV-2スパイクの侵入にはACE2受容体だけでなく膜貫通型プロテアーゼTMPRSS2が必須であることが明らかとなった。次に、SARS-CoV-2野生型スパイクと5種類の変異型スパイクのシュードウイルス感染性を比較したところ、D614Gが野生型と比較して約3.5倍高い感染性を示した。立体構造解析の結果、D614→G614変異によってスパイク三量体における対面のK854との塩橋およびT859との水素結合が失われることで堅固な三量体構造が柔軟性を獲得した結果、ACE2受容体と結合し易くなることが予想された。実際、Biolayer interferometry解析により、D614GのACE2受容体への結合親和性が野生型に比べ2倍高いことが確認できた。最後に、回復期患者血清を用いたウイルス中和アッセイによって、中和抗体感受性については野生型とD614Gスパイクシュードウイルスで差異がなく、抗体耐性を獲得しているわけではないことが明らかとなった。以上の結果から、D614Gスパイク変異による感染性の上昇が、現在のSARS-CoV-2の世界的拡大を一気に加速させる一要因となった可能性が示唆された。なお本研究は、国立感染症研究所、名古屋医療センター、熊大ヒトレトロウイルス学共同研究センター、および自衛隊中央病院との共同研究である。

 

 

 

 

 

 

 

※本研究の実験実施は国立感染症研究所で行われています。