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クローン動物の低産仔率の原因解明のため卵子内の初期化因子除去技術を開発 2020年8月発表

生命工学科の大学院修士課程(バイオサイエンスコース)を2019年に卒業した今野俊祐さん、2020年に卒業し、博士課程(統合応用生命科学専攻生命工学コース)1年生(2020年8月現在)の伊藤大裕さんらのグループが、クローン動物の低産仔の原因として定説だった、卵子の初期化因子減少説について、マイクロマニピュレーターを駆使した新しい技術を開発することで、この説が正しくないことを突き止めました。この成果は今野さんが筆頭著者として、発生分野ではトップクラスの科学雑誌Development誌に、Removal of remodeling/reprogramming factors from oocytes and the impact on the full-term development of cloned embryos (卵子からリモデリング/初期化因子の除去とクローン胚の出産に与えるインパクト)という表題の原著論文を発表しました。

 クローン動物を作るためには、最初に卵子から卵子自身の核を取り除き、次に体細胞の核を卵子へ注入することが必要です。すると卵子は、卵子内に存在する初期化因子を用いて体細胞の核を初期化し、分化していた核を未分化の状態へ戻します。この体細胞核の初期化の完成度がクローンの成功率に大きな影響を与えるため、クローンの成功率が低い原因は、初期化が不完全だったからだと考えられています。従来説は、卵子から体細胞核を除去する際に、卵子内の初期化因子も一緒に除去されてしまうため、核移植後の体細胞核の初期化が十分に行えなかった、というものですが、初期化因子というものが不明なため、この説を証明することは出来ませんでした。

 今回同グループは、この未知の初期化因子を、別の体細胞を使って卵子から除去する新技術を開発しました。最初に卵子へ1~3個の体細胞核を注入し、それらの核が卵子内の初期化因子を使って十分に初期化された後で卵子から取り除くことで、卵子内の初期化因子量を減少させることに成功しました(図1)。この方法で作った初期化因子減少卵子を使ってクローン胚を作ってもクローン産仔の成功率にも影響はなかったことから、これまで考えられていた、「除核作業により卵子内の初期化因子が減少したことがクローンの低産仔率の原因」という従来説が誤りであることを明らかにしました。

 

 

 

 

 

 

 

図1.初期化因子を除去する新技術。A.体細胞核を2個注入してから除去して、ライブセルイメージングで正常性を観察。B.体細胞核を2個注入してから除去し、次に精子を注入して顕微授精した。C.体細胞核を1-3個注入してから除去し、初期化因子が減少した後で核移植を行った。