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刈草バイオマスだけを原料に従来の常識を覆す量のメタンを生産する発酵微生物群を樹立 2021年2月発表

道路や公園、河川などの管理において繁茂する雑草を刈り取ることで排出される刈草は、一般産業廃棄物として焼却されますがその処分には莫大な費用が費やされています。刈草は我が国だけでも年間数千万トンが排出される有望なバイオマスですが、その利用はほとんど進んでいません。バイオマスを効率よくエネルギー物質に変換する手段のひとつにメタン発酵があります。メタン発酵は多くの種類の微生物の作用を経て有機物から都市ガス成分であるメタンを生産するプロセスですが、生ゴミや糞尿の処理には適する反面、木材や刈草の処理には向かないと言われていました。
生命工学科博士課程の松田修平さんら(微生物機能・生態応用工学分野)のグループはこの難題に取り組み、刈草のみを原料にこれまでの常識ではあり得ない効率(1トンの刈草から30万リットル)でメタンを生産する微生物群を樹立し、構成微生物種の解析を行った成果を ”Effective methane production from the Japanese weed Gougi-Shiba (Cynodon dactylon) is accomplished by colocalization of microbial communities that assimilate water-soluble and -insoluble fractions”(雑草(ギョウギシバ)を原料としたメタン生産は雑草の水溶性成分と不溶性成分をそれぞれ資化する微生物群の局在共存により最大化する) の標題でFEMS Microbiology Letters誌に発表しました。

FEMS Microbiology Letters誌の論文へのリンク:https://doi.org/10.1093/femsle/fnab015

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
松田修平さんの写真

メタン発酵では数百種類の微生物が関与して有機物を有機酸や二酸化炭素、水素まで分解し、それらの低分子化合物をメタン生成アーキアと呼ばれる微生物たちが変換してメタンを作り出します。私たちはそのメタンを回収して都市ガスや発電の燃料として利用することができます。しかし、多数の微生物が関与するがゆえに安定してメタンを生産する状態で微生物群を維持するのは難しく、特に刈草だけを原料にすると安定運転は不可能であるとされていました。松田さんは少量の緩衝液の存在下で長期間微生物群を植え継ぎ、安定かつ高収量でメタンを生産する微生物群を樹立することに世界で初めて成功しました。
本研究では、発酵のために加えた水に雑草から溶け出す(可溶性)成分と溶けない(不溶性)成分に着目し、両成分を別々に微生物群に与えた場合と両成分とも存在する場合で比較を行うことで、メタン生産に大きく影響する微生物種を探りました。両成分を別々に微生物群に与えた場合にはどちらもメタン生産量が大きく減少し、両者の生産量を合わせてももとの生産量には届きませんでしたが、可溶性成分だけ、および不溶性成分だけでしばらく植え継いだあとに両者を混合して両方の成分を与えるともとどおり高収量のメタン生産を行うことができました。分子生物学的解析により、どの成分を与えた場合でもプロテイニフィラム属細菌とメタノバクテリウム属細菌が優先種として存在することは変わりませんでしたが、それぞれの微生物群内でごく少数を占めるいくつかの微生物種が培養条件によって明らかに変化していることが分かりました。可溶性成分と不溶性成分でそれぞれ植え継いでから混合してメタン生産がもとどおり回復した微生物群内では雑草全体を原料に植え継いだ微生物群と同様の微生物種構成に戻ることから、それぞれの成分の分解・変換を得意とする特定の微生物が一定量存在し、それらが各成分をバランスよく分解・変換して有機酸ならびに二酸化炭素、水素を適切に供給することでメタン生成アーキアが効率的に働き高収量のメタン生産が達成されていることが示唆されました。

同グループでは、この成果をもとに、将来は河川管理のような大規模事業だけでなく、たとえば町内会の清掃活動で排出された刈草を放り込むだけでメタンを生産して小規模発電が行えるような装置の開発に活かせる微生物制御技術の研究を続けています。