資格・進路

凍結乾燥したマウス精子を薄いシートで保存することに成功 2021年8月発表

 生命工学科を2018年に卒業した、大学院博士課程2年生の伊藤大裕さんらのグループが、マウスの凍結乾燥精子を薄いプラスチックシートの間に挟んで保存することに初めて成功しました。大量の精子を1冊のアルバムに収めて保存したり、ハガキに貼り付けて精子を簡単に輸送したりことができます。この成果は、国際科学雑誌Cellの姉妹誌iScienceに、Mailing viable mouse freeze-dried spermatozoa on postcards(マウス凍結乾燥精子のハガキによる郵送)の表題で伊藤さんが筆頭著者として原著論文を発表しました。なお、本研究発表は、本学広報企画室、iScience紙からプレスリリースが発行されています。

 生殖細胞の保存技術は、絶滅危惧種や家畜動物、実験動物などの貴重な遺伝資源の保全に欠かせない技術です。哺乳類精子の凍結乾燥(フリーズドライ)技術は若山教授が世界で初めて成功した技術で、超低温冷凍庫などの特別な保存設備を一切用いずに、例えば研究室の机の引き出しなどの常温で精子を1年以上保存できる唯一の技術です。ところが、従来法にはガラス製のアンプル瓶が必要で(図1中央)、ガラスが破損し保存に失敗する恐れや、かさばって大量の保存には適さないなどの欠点がありました。

 
 
 
 

 

図1. 凍結乾燥精子を保存する 

 本研究では、ガラス製のアンプル瓶の代わりに、厚さ1ミリメートルにも満たない薄いプラスチックシート(図1右)に凍結乾燥精子を挟んで保存する技術を開発しました。このシート保存技術は、破損の心配がないだけでなく作製コストも削減されます。シート保存した凍結乾燥精子は、冷凍庫(−30度)であれば3ヶ月間保存しても健康な産仔が多数得られ(表1)、産まれた仔の繁殖能は正常でした。出産率は作製直後の成績と同じであることから、冷凍保存であればより長い期間の保存が可能だと思われます。常温の場合、3日間の保存であれば問題なく産仔を得ることができました(表1)。さらにシート保存した凍結乾燥精子をハガキに貼り付けてポストに投函し、山梨県内および千葉県から山梨県まで郵送する実験を行ったところ、どちらの場合もハガキは2日以内に届き、どちらの郵送ハガキからも健康な産仔を得ることに成功しました(表1)。
 本研究により、たった1冊のアルバムで膨大な数のマウス系統の精子をすべて保管できれば、従来必要であった保管場所や維持費用の大幅な削減が期待されます。また、ハガキを使用すれば、送料を数百分の1以下(液体窒素を使用した場合は数万円、ハガキは85円)に抑え、手軽にマウス系統を分与できるようになります。現在の技術では常温保存はまだ数日が限界ですが、保存温度や出産率を改善することで世界的に利用されるようになることが期待されます。